虫と旅する

終点の奈半利までくるとさすがに乗客は少なく、折り返し列車はさらに少ない。間もなく日没となるので、海側を見てても真っ暗になるだけで見るものは無い。ので、山側の住宅が建ってる方(進行右側)に座ってみたが…
右側もあんまり見るものがない(^_^;)
沿線はいかにも海沿いの田舎の景色なのだが、矢鱈目立つのは鉄骨造りのタワーである。これは津波避難タワーだそうだ。こっちは鉄道の高架橋の上なので、タワーは線路よりは低いか同じくらいの高さであり上から見下ろすような形でしか見れない。が、一般のお宅よりは相当高いタワーであり下から見れば威容なのだろう。
これがあちこちに建ててある。たしかに目の前は太平洋であり、いつか大地震が起こって海から大津波がやってくるであろうことはよそ者にでも想像がつく。住んでる人にとってはますます切実な問題であろう。年イチくらいで避難訓練と称してタワーを駆け上がる練習とかしているんだろうか。やってなかったらいざというとき役に立たんよね。
やがて日没となり外は真っ暗。街の明かりがとても綺麗ね横浜…って街の明かりが少ないのだが?家はたくさん建っているのに明かりがついてる家が少ない。これはなんとしたことか。昼間に見たらそれなりに人住んでる感じがしていたが、その中に空家が多数含まれているというのか。これが地方の衰退というやつなのだろうか。
列車は順調に後免到着。列車は高知行きだがここで下車して晩飯食って特急を待とう。45分もあるから余裕で晩飯食えるだろうと思っていた。
…が、駅前にまともな店は無かった。ガーン(;_;)
そうか、後免の市街地はこの駅から南に下った土佐電鉄の線路沿いか。JR駅にはビックリするほど何もない。これは晩飯どころの話ではない。駅から少し歩いたところにあるスーパーマーケットで値下がりしている弁当の売れ残りを買ってきて、駅のホームでビールと一緒にむしゃむしゃ食う。駅に戻ってくるときに、駅正面から死角になる位置にファミマがあることに気付いたが万事休す。
ちなみにJR後免駅の窓口営業は18時半までで、この時間帯は無人駅である。道理で、土佐くろしお鉄道の列車を後免で降りるときに乗車券を回収されるわけだ。どうやって改札の外に出るんだ?と思ったら改札はフルオープンになっていたという。
そして列車の方もハプニング発生。私が乗る予定の上り特急の前に到着するはずの下り特急「南風19号」が7分遅れで運転中。この列車は後免を発車した後、高知までのどこかの駅で行き違う予定だったはずだが、遅れでそれが無理となったらしく「南風19号」は後免で上り「南風28号」待ち合わせに変更、上り列車に進路を譲るために到着ホームを変更して入線してきた。
間もなく上り特急「南風28号」も入線、私はそれに乗車。思った通り、自由席は空いていた。外は真っ暗で何も見えないので寝るだけ…なんて思っていたら、大杉駅到着時に窓に蛾が張り付いた。列車は高速運転が売りの2000系気動車、速度を上げたら蛾なんてすぐに剥がれ飛んでいくに違いない、と思ってみていたら、意外や意外、速度が上がっても蛾は意地で張り付いている。おお、すごいぞ!と思った刹那、列車がトンネルに突入。蛾…列車風に巻き込まれて死んでないといいが(^_^;)
しんみりする間もなく、阿波池田駅で今度はキリギリスが窓に張り付いた。さすが四国の山奥は自然が豊富だな!こちらは蛾より体が大きく空気抵抗も大きそうなのですぐに剥がれ飛んでしまうだろう、と思っていたのだが、これまた意外や意外、なかなか剥がれることなく、トンネルの乱気流もクリア。
そんなに遠くにお出かけしたいのだろうか。四国の山奥では満足できないのだろうか。
こうなるとどこまで張り付いているのか興味深々。列車停車中に飽きてどっか飛んでいくのではないかとも思ったが、ついに列車が宇多津に着いて、併結している高松行き特急「しまんと8号」を分離してもまだ離れない。
列車はいよいよ瀬戸大橋線に入線するわけだが、頼むから橋梁走行中に列車から離れるのだけは止めてくれよ。離れたら最後、下は海だからな。落ちてしまったら万に一つも生還の可能性は無い。
瀬戸大橋を轟音とともに走り抜けて列車は児島に到着。虫はついに離れることはなかった。とりあえず良かった。あの虫、岡山まで行ってしまったに違いない。