国鉄勝田線の件

今日も福岡ネタ。「もしも勝田線があったら」というお題は鉄ヲタどもの想像をたくましくするものらしい。博多駅の隣の吉塚を起点とし人口増加の著しい糟屋郡内を通る勝田線が今あったらナァ、廃止せずに改善すればきっと蘇ったんじゃないかナァと考えるヲタは多いらしい。
しかし福岡市民だった私はちょっと違う考えを持っていた。
国鉄勝田線は前述の通り吉塚から志免、宇美を通って筑前勝田までを結ぶ15km弱の短い路線。昭和60年4月1日に廃止されたが、最終日の3月31日には全線を歩いたものだ。しかしそれ以前に乗ったのは実はたった一回だけ(^_^;) 計2回しか乗ったこと無かった。
Wikipediaにも書いてあるが勝田線の末期は一日6往復しか列車が無い完全に打ち捨てられた路線だったが、昭和30年代はむしろ同じ吉塚を起点とする篠栗線の方がそんな感じで勝田線の方が列車本数が多かった。衰退の原因は炭鉱閉山による貨物輸送の減少で、同じ問題を抱えていたはずの篠栗線は昭和43年に桂川まで線路が延長され筑豊地区と福岡を結ぶ幹線として飛躍、方や勝田線は廃止と相成った。
そんな勝田線の改善策は廃止前からいろいろ語られていたが、いずれも実現は無理な話だった。まず、列車本数の増加だが、末期の列車交換可能駅は志免のみで他の交換施設は全て撤去済み。復活させるにしても、上亀山しか土地が空いてなかった。まあ6往復しかなく昼間とかぽっかり空いてる時間帯はあったので一時間に1本くらい運転すればあるいは、という考えは無くは無い。
しかしその場合、吉塚から今の柚須駅手前まで線路を共有していた篠栗線との調整が難しい。篠栗線は幹線であり列車本数が多いため、勝田線の列車が割り込むと篠栗線の邪魔になる(^_^;) 吉塚駅ホームも今と同じ1面2線で余裕がない。実は吉塚から篠栗線と勝田線の分かれる地点まで昔は単線並列だったらしく、吉塚からずっと複線分の路盤があったのでそれを復活させれば列車本数が増やせたのだが…
その空地に後から作った山陽新幹線の高架の橋脚がどっかり建ってて線路の復活は無理(T_T)(話はそれるが篠栗線の複線化も難しいと言える)
さらに勝田線は末期は線路等級が低かったようで、路盤のボロさは特筆ものだった。線路はペンペン草が生い茂り、まるで貨物の引き込み線みたいな細くてぐにゃぐにゃ曲がったレールと間隔が開いた朽ちた枕木で、気動車はゆっくり走るのにグラグラ揺れた。
さらにさらに勝田線には線形も問題があった。元が運炭鉄道なので炭鉱優先で線路が敷かれ、志免駅は志免の市街地から大きく離れた国鉄志免炭鉱の傍にあった。志免の人が列車を使うのは極めて不便だった。一方、宇美八幡の参宮鉄道の側面も持っていたので宇美町では比較的市街地を通っていた気がする。
市街地から離れてるなら土地が安く手に入るから住宅街を作ったら大儲けじゃね?という話も今なら出来るが、今度は鉱害復旧という難敵が立ちはだかる。前述の通り勝田線沿線は炭鉱地帯なので地下は穴だらけ。地盤沈下も甚だしく、少し離れているが宇美線酒殿のあたりは数メートル沈下しているという話を聞いたことがある。たしか鉱害復旧事業には補助金が出ると思ったが、普通の土地より手間がかかるのはやむを得ない。
この鉱害復旧、たしか鉄道には補助金が出ないんだよな。だからこういうところは道路や住宅地は立派に再生しているのに線路だけガタガタなんてことがあったように思う。
いずれのネガティブ要因も金さえかければなんとかなるレベルではある。金かけて再生するウルトラCな提案として、当時から福岡空港まで延伸計画のあった福岡市営地下鉄を勝田線に乗り入れさせたらどうか?というのを新聞で見た記憶がある。スゲー案だが、それをするなら篠栗線の方が優先候補だろう(^_^;) それに勝田線の線路は前述のとおりの悲惨な状況で、それこそ地下鉄と貝塚線との格差の比ではない。それに、勝田線沿線はほとんどが福岡市ではないので、福岡市以外の誰が乗り入れ線を建設するのかという問題もあるが、国鉄は分割民営化前の末期状態なので新規投資など思いもよらない。
国鉄での経営によらない生き残り策としては第三セクター鉄道が考えられるが、ここで地域特性が問題になる。沿線の糟屋郡の各町の足並みの揃わなさは格別で、平成の大合併の際にも合併話がまとまらなかったくらい。たしか勝田線問題でも線路はあるが駅は無い粕屋町が嫌がったか何かでお流れになった記憶がある。糟屋郡各町が合併の上で福岡市に編入でもされてれば地下鉄の話もちょっぴり現実味が増すところだが、糟屋郡の合併は勝田線存続より難しい(^_^;)
あらゆる困難を克服してお金が出せるとなったとして、最大の仇敵が西鉄バスである。既に有名な話だが勝田線沿線には以前から西鉄バス路線が完備されていてものすごい数のバスがさまざまなルートを経由して走っている。勝田線と利便性と比べるのは極めて愚か。一番最初にこの話を持ってくればそれだけで「勝田線の延命はあり得ない」で終了なのだが(^_^;)
勝田線がちょっとやそっと便利になった程度では沿線の人が列車を使うようになるとは思えない。地下鉄が乗り入れて天神まで直通するくらいになって初めて対等になるかなという感じ。バスの弱点として、この地域の道がしょぼくてダイヤが乱れがちというのはあった。が、今はバイパスができて道路事情が良くなりバスが走ってる旧道の混雑も緩和された模様。とは言え依然としてダイヤよりは遅く来るので、鉄道として唯一の強みはここしかないがいかんせんその他が弱すぎる。
そんなわけで勝田線廃止は必然でありいくら贔屓しても線路は残せないのが明瞭。だったが…あの当時からして1.5倍近く人口が増えた福岡市と、そのベッドタウンとして猛烈な勢いで人口が増えている糟屋郡、今の状況ならもしかしてもしかすると線路を残しておいたら良かったかもしれない、と思えなくもない。志免の市街地が広がり思いっきり町外れだった志免駅跡周辺にも開発の波が押し寄せ、終点の筑前勝田の炭鉱跡地に四王寺坂なる住宅街まで出来たとあって、今頃になって勝田線に追い風が?
福岡市営地下鉄福岡空港で終点なのはいかにも中途半端で、その先の延伸問題というのがくすぶってるようなので、勝田線のスピリットがその延伸区間に蘇るかもしれない。そのためにはあの糟屋郡の足並みの揃わないのをどうにかしないとどうしようもないが。